【news】「里見勝蔵を巡る三人の画家たち」展の予告

当社団法人が produceした展覧会の概要が固まった。

展覧会名:「里見勝蔵を巡る三人の画家たち」

開催期間:令和4年10月12日(水)~10月30日(日)

会場:池之端画廊 〒110−0008  東京都台東区池之端4−23−17 ジュビレ池之端

協賛:一般社団法人 板倉鼎・須美子の画業を伝える会

里見勝蔵(1895・明治28年~1981)を巡る三人の画家とは熊谷登久平、荒井龍男、島村洋二郎である。意外な組み合わせと感ずる方が多いと思う。近代日本洋画史を紐解いても繋がりはよくわからない。

きっかけは島村洋二郎(1916・大正5年~1953)である。私がエコール・ド・パリの夭折画家、板倉鼎の顕彰活動を始めた4年前、志半ばで世を去った洋画家島村の顕彰をしている洋二郎の姪、島村直子さんを紹介された。私は鼎と同時期にパリで活動した東京美術学校卒業生を調べていて、里見勝蔵は前田寛治がパリ豚児と呼んだうちの一人だったが、偶々洋二郎が師里見に宛てた近況を報告する絵葉書(昭和18年横須賀発)を入手したのである。洋二郎は旧制浦和高校を中退した後、数年間東京杉並の里見のアトリエに通うが文献や里見の著述等には記されておらず戦中期には疎遠になっていた、洋二郎の方から距離を置くようになったのだろう、とされていた。しかし葉書の親密な綴り振りから二人の関係を見直す必要があると思い早速直子さんに伝えたところ新事実に吃驚され洋二郎年譜にも追記されることになった。

それと前後して熊谷登久平(1901・明治34年~1968)を池之端画廊の展覧会で観て、登久平次男の夫人熊谷明子さんと面識を得る。画廊主鈴木英之氏を私が顧問を務めている美術愛好家団体あーと・わの会にお誘いし、その縁で同会の初代理事長野原宏氏が所蔵している絵画を池之端画廊で展示することになった。そこに洋二郎に続いて、知ったばかりの熊谷登久平と、野原氏が多くの作品を所蔵されている荒井龍男(1904・明治37年~1955)の里見勝蔵宛絵葉書各1通も入手する機会に恵まれたのである。

登久平の葉書は昭和11年10月宇都宮発。熊谷明子さんに訊ねると、保有されている資料類から文面に記されている人名が同年7月に福島二本松で開かれた「独立美術協会派四人展」に出品した画家と割り出してくれた。四人の一人は吉井忠で、賛助出品者に里見、福沢一郎、林武、田中佐一郎、井上長三郎、応援出品者に登久平がいる。発信地も宇都宮であり同展に因む行き来のようだと判明した。荒井の葉書は当時居住していたソウル発で(昭和9年9月)、「パリに行くので便宜をお授け賜えれば・・シャガールを紹介して欲しい・・後進の為に道をお開き願います・・」という依頼の文面が興味深い。荒井は翌10月渡仏している。実際にシャガールに会ったのか不明だが画家山田新一は荒井の滞欧作展(昭和11年)を観てシャガールの影響を指摘している。洋二郎の絵葉書はシャガールで偶然の呼応だった。今回の四人を繋いだのは、昭和戦前・戦中期に投函された里見勝蔵宛の3枚の絵葉書なのである。これが今回の展覧会に至った経緯だ。親分肌里見勝蔵の求心力のお蔭とも言える。

里見勝蔵と三人との関係は、熊谷登久平は里見が創立メンバーだった独立美術協会会員として、荒井龍男は在野美術団体の後輩として、島村洋二郎は師弟関係として、である。全て別ラインで各人に面識があったのかは定かではない。登久平と洋二郎は白日会で接点があるが、10年間出品在籍した登久平に比べ洋二郎は入選1回である。しかし、放浪の画家、長谷川利行と親しくその追悼歌集に寄稿した登久平、パリでボードレールの碑を描き友人たちと詩集「牧羊神」を出版した荒井、手作りの「五線譜の詩集」を遺した洋二郎には同種の感性が通底している。彼らの作品は形態家ではなくカラリストのそれだ。それぞれの代表作やその他1次資料を多く所蔵する方々三人のご協力を得、里見作品を加えて「昭和のフォーヴィストたち、色の競演」と銘打つことが出来た。

四人の作品が、里見勝蔵の母校東京美術学校(現東京藝術大学)近くの、美校卒業が2年後輩にあたる鈴木千久馬の孫、英之氏が経営する画廊で一堂に会する。画廊は3年半前、英之氏の母方の祖父、日本画家望月春江のアトリエ跡地に新築した建物だ。そのことにも想いを寄せながら絵を味わっていただければと思っている。

主な展示品:

里見勝蔵宛絵葉書3通

里見勝蔵:「ルイユの家」昭和35年作、「(仮題)フランスの田園風景」昭和30年代後半~40年代前半作

熊谷得登久平:「ねこ じゅうたん かがみ 裸女」昭和34年作、「熊谷登久平画集(絵と文)」昭和16年刊

荒井龍男:「ボードレールの碑」昭和9年作、詩集「牧羊神」昭和7年刊

島村洋二郎:「桃と葡萄」昭和13~14年作(里見「秋三果」のオマージュ作品)、手書きノート「五線譜の詩集」

 

 熊谷登久平 絵葉書投函日1936・昭和11年10月11日宇都宮発

    熊谷登久平関係資料

 荒井龍男 絵葉書投函日1934・昭和9年9月15日ソウル発

荒井龍男関係資料

 島村洋二郎 絵葉書投函日1943・昭和18年5月17日横須賀発

 島村洋二郎手書きノート「五線譜の詩集」

 

 里見勝蔵「ルイユの家」(昭和35年作)
 里見勝蔵「(仮題)フランスの田園風景」(昭和30年代後半~40年代前半)

 熊谷登久平「ねこ じゅうたん かがみ 裸女}(昭和34年作)

 荒井龍男「ボードレールの碑」(昭和9年作)

 島村洋二郎「桃と葡萄」(昭和13~14年頃作)

文責:水谷嘉弘

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